ゴッホ 「ヨチヨチ歩き(First Steps)」 1890   
メトロポリタン美術館 ニューヨーク

画家を志したゴッホが試行錯誤を続けていた時期の絵で、作品集には殆ど登場しない。ゴッホのオリジナルではなく、彼が尊敬していたミレーの模写。とはいうもののゴッホ独自の色彩感覚とタッチが加えられていて、こちらの方に強く魅かれる人も少なくない。彼の大切にしていた農家を題材とした人情あふれる絵の一枚。

ひまわり、14本

1888年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

ゴッホの最も代表的な作品のひとつ。本作は日本の浮世絵から強い影響を受け、同国を光に溢れた国だと想像し、そこへ赴くことを願ったゴッホが、日差しの強い南仏の町アルルで描き始めた「ひまわり」シリーズの1枚。

「ひまわり」には5本のものや15本のものを含めて10点以上存在するが、その内6点がアルル滞在時、そして5点がパリで描かれているといわれている。ひまわりの強い生命力と逞しいボリューム感を表現するために絵具を厚く塗り重ね描かれたが、それは同時に作品中に彫刻のような立体感を生み出すことにもなった。

夜のカフェテラス(アルルのフォラン広場)
1888年 クレラー=ミュラー国立美術館

黒を使用せず、黄色と深い青色で描かれる夜の情景表現は、ゴッホが本作で取り組んだ最も大きな要素のひとつであり、(画家にとっても馴染み深い)この黄色と青色 の明確な色彩的対照性や激しい(力動的な)衝突は観る者の目と心を強く奪う。

本作の黄色と青色、そして杉の木の緑色の鮮やかな色彩描写は(本作中で)最も 注目すべき点ではあるが、本作の石畳の複雑な色彩表現も特筆に値するものである。画面最前景の轍の入った石畳の、やや影が落ちた暗く強い色調と、最もガス 灯の光が当たるカフェテラスの前の石畳の白く反射する明瞭な色調の対比的描写は、図形化したかのような造形と共に、この頃に手がけられた画家の作品の中で も傑出した表現であり、アルルの旧市街にある夜のカフェテラスの情景の印象を決定付けている。

ローヌ川の星月夜(Starry night over the Rhone river)1888年

画面右下に恋人たち。対岸には煌々と灯る灯火の列。灯火がローヌ河のさざ波に反射して美しくきらめいている。夜空に輝く星々の独特な表現は、画家自身の言葉によれば夜空に咲く「天国の花」として描いた為としている。1888年の秋、ゴッホは弟のテオに「曖昧だが、それにもかかわらず色鮮やかなもの」 を写すために、外に「星を描きに」 行くと書き送った。精神的に安定した時期だったようだが、澄み切った穏やかさの背後に、傷ついた魂が見え隠れしているような、哀愁を感じさせる絵。静けさの中にも、天に向かっていく宇宙への憧れのような、感情の高ぶりが感じられる。

ゴッホ ラングロワ橋【アルルのはね橋】

1888年 所蔵:クレラー・ミュラー美術館

都会のパリに疲れたゴッホは、太陽と安らぎを求め、1888年南フランスのアルルという田舎町へ移住。この作品は、アルルの日常を描いた作品。川岸で洗濯をする女性の姿が見える。実際のモデルとなった橋はアルルの中心部から約3キロほど南西の運河に架かっていたものだが現存していない。再現されたものが観光地となっているが、運河の堤などの風景が異なるために、絵画の雰囲気が再現されているとまでは言えないものである。

 

ラ・クロの収穫(青い荷車)

(The Harvest) 1888年 |ファン・ゴッホ美術館

ラ・ク ロ平野の収穫風景を描いた作品。画面のほぼ中央へ青い荷車が描き込まれ、その水平線上の右部分へは小さな赤い荷車が、左部分へは大きな積み藁が配されてい る。ゴッホ自身の言葉で「故郷を想い起こさせる」と、自身の抱いた心象が残っている。

本作で最も注目すべき点は南仏の強い日差しによって多様に輝くラ・ク ロ平野の輝くような黄金色の色彩を主色とした各色彩との対比にある。平野に使用される黄色がまず前景を支配し、前景と中景の間には黄色と相性の良い緑色の 木立が広げられている。

そこから再度、多様な黄色が中景として 画面の大部分を支配し、そして青く透き通る山々と雲ひとつ無い青空へと続いていく。この視線の流れを意識した色彩の心地良い変化と点々とアクセント的の加 えられる赤色、白色などの色彩はゴッホの色彩に対する類稀な才能を良く示しており、今も観る者を魅了し続ける。

糸杉のある麦畑 (Wheat Field with Cypresses)

ナショナルギャラリー、ロンドン

1889年、アルルに近いサンレミで入院した療養院の窓から見える景色を、また病状の良いときには外に出て描く。うねる雲と波打つ小麦畑、そびえ立つ糸杉が、ゴッホの心を表している。

gogh

星月夜-糸杉と村- Nuit étoilée (cyprès et village)
1889年 ニューヨーク近代美術館

 ゴッホ が神経発作のためにサン・レミのカトリック精神病院に入院していた際に描かれた晩年期の傑作、星月夜。ゴッホは自身が盲信していた自然世界との一体化につ いて次のように語っている。「夜空の星をみているといつも夢見心地になるが、それは地図の上で町や村を表す黒い点を見てあれこれと夢想することに近い。

何故、夜空に輝く点にはフランス地図の上の点のように近づくことができないのか不思議に思う ~中略~ 僕らは死によって星へと到達するのだ」。星降るような空を創造したいと自身が投書した手紙の中でも語っているゴッホが、それを表現した象徴的な作品である。

本作の最も印象的な、渦を巻く暗雲やその中で光を放つ月の表現は観る者に強い印象を与える。本作でゴッホは、本来の静寂に包まれた闇夜を描くのではなく、 自身のエネルギーを発散するかの如く、黙示禄的な印象を抱かせる激情に溢れた夜を描いた為である。また糸杉と呼ばれる天高く伸びた杉の木を始めとする大半 のものは本作はゴッホが入院していたサン・レミのカトリック精神病院の病室から見た風景を元にされているが、画面中央の北欧的小村と教会はゴッホの想像に よって描かれた。

アイリス

1890年 ファン・ゴッホ美術館

1890年を代表する静物画作品。花という画題、鮮やかな黄色の単色的背景、丸みを帯びた花瓶など、前年に制作された名高き『ひまわり』の連作を彷彿とさせるが、当 時のゴッホの精神状況は神経発作と精神的不安が悪化していた非常に危機的状況にあった。それゆえに、画家の狂気性と希望が画面の中で入り交じる類稀な静物 画でもある。

画面中央に描かれる青い花を咲かせた美しいアイリスは画家の太く明確な輪郭線による独特の描写で、あたかもその生命を咲き誇らせるかのように 堂々と力強く描かれている。花の間からのぞく緑色の葉も画家の強烈な観察的視線をそのまま表現したかのように鋭く直線的であり、観る者の目を惹きつける。 その中で画面右下に描かれる萎れたひと束のアイリスは画家の不安定で漠然とした恐れを感じさせる。そして背景や花瓶に使用されたアイリスと色彩的対比を示 す明度の高い黄色が、画家の絵画への純粋な想いを反映させたかのように強烈な輝きを放っている。